経済成長率
2021年4-6月期実質GDPは2四半期ぶりプラス成長となるものの、年率換算で前期比1.9%増に留まりました。米国の同6.6%増や、ユーロ圏の同8.3%増と比較すると、日本は大幅に後れを取っています。ワクチン接種率が経済再開可能な水準まで届かず、長引く緊急事態宣言で個人消費は0.9%増と鈍い回復となりました。設備投資はデジタル対応等により2.3%増加し、堅調な外国経済により輸出は2.8%増となりましたが、ワクチンの輸入加速等により輸入が輸出を上回り、外需の寄与度は0.3ポイント低下しました。
ムーディーズアナリティクスの予測によると、日本の今年の実質GDPは前年同期比2.2%増が見込まれています。予測通りに成長した場合、GDPが2019年の水準まで戻るのは2023年以降となります。また、2024年以降の成長は鈍化を続けコロナ前同様に低成長が続く事も予測されています。
出所)内閣府、Moody's Analytics
景気動向指数(CI)
2021年6月の景気動向一致指数(CI,2015=100)は前月から2.4pt上昇し94.5、先行指数は1.5pt上昇の104.1となり基調判断は改善を示しています。一方で、一致指数は消費税率が10%に引き上げられた2019年10月以降8か月連続でマイナス成長を続けました。第1回目の緊急事態宣言下であった2020年5月には73.7まで下げ、リーマンショック後の2009年4月以来の低水準を記録しました。基調判断は2019年8月以降12か月連続で悪化となりました。
出所)JPX、内閣府
企業景況感
日銀が4半期ごとに実施する日銀短観では、6月調査で大企業・製造業のDIは前回から9pt上昇の14を示し、2019年3月調査時点迄回復しています。大企業・非製造業は同2pt上昇の1となり、1年四半期ぶりにプラスに転じたもののコロナ前20であった事を考慮すると、2020年6月の底であった▲17からは半分程度しか回復していない事になります。また非製造業の中型、中小企業は度重なる緊急事態宣言で回復力は鈍く、コロナ前を下回るマイナス圏で推移しています。
出所) 日本銀行
物価と金利環境
黒田総裁の下、日銀は2013年4月2%の物価上昇を2年程度で達成する事を目標に掲げ、異次元緩和と呼ばれる大胆な金融緩和策を導入しました。しかし進捗が悪かった為2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的緩和」を導入し、これにより貸出金利が軒並み低くなり、マンションや家を買う人が増加し始めました。10年物国債利回りのマイナスが深くなり金融機関の運用が困難になった為、日銀は同年9月にイールドカーブ・コントロールを導入し10年物国債利回りが0程度で推移するよう制御しています。度重なる金融政策も消費者物価指数2%には届かず、目標達成時期は6回延期された後2018年4月削除され無期限となりました。今年8月末、FRBが年内のテーパリング開始を示唆しましたが、日銀はあくまでも2%の物価安定の目標を達成するまで緩和を引き締めない事が重要であると示しました。
出所) 財務省
消費者物価指数は2021年7月分より2020年基準に改定され、コアCPIの前年比は-0.2%となりました。6月のコアCPIは前年同期比-0.5%だったのに対し、2015年基準では0.2%でした。改定後は、超低額プランの提供を開始した携帯電話通信料のウェイトが増えた事も影響しました。前月比では5月0.3%、6月0.1%、7月0.4%と足元の物価は上昇基調となっています。これは海外経済の回復を背景にコモディティ価格が上昇し、生活必需品の価格が押し上げられている事が要因です。中間層の所得が増えない中、好ましくない物価上昇が懸念されています。
出所) 総務省
労働環境
日本の失業率は2017年6月以降コロナ前までは「完全雇用」とみなされる3%を割り込んで推移しており、有効求人倍率も2013年11月以降1倍を超え、労働環境は逼迫していました。また将来的に生産年齢人口(15-64歳)の減少が見込まれており、人材不足へ対応する為政府は働き方改革の導入を進め、今まで少なかった女性や外国人、高齢者の雇用を促進していました。2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞で労働環境の悪化が懸念されていましたが、失業率には潜在労働力が含まれない事に加え雇用助成金の特例措置の効果もあり2020年10月の3.1%迄の上昇に抑えられ、比較的低水準を維持しています。2021年7月の失業率は2.8%、有効求人倍率は1.15倍となっています。
出所) 厚生労働省、総務省
建築コスト
建設工事費デフレーターの「建築総合」では2012年12月安倍政権発足以降、2019年12月のピーク迄に18.32%増加し109.8となりました。安倍政権発足後、東日本大震災による復興事業などで公共工事が増加した事に加え、2013年には東京オリンピック開催が決定し建設需要は増加しました。一方で、リーマンショック以降建設業者が減少していたため職人不足により人件費は上昇し、これに加え円安や資源価格上昇に伴う建築材料のコスト増加等を背景に、工事費は上昇を続けていました。2020年に入ると新型コロナウイルス感染拡大で世界経済が止まり、建設工事の中止や延期が相次ぎ、工事費は2019年12月から2020年5月迄に3.64%減少しましたが一時的な減少に留まり、その後は資材価格と人件費上昇を背景に工事費は高止まりが続いている状況です。
出所) 国土交通省