この直近5週間で投資家から最も多く質問されることは「COVID-19によるロックダウン開始以降どの程度不動産価格が下落したのか?」でした。正直なところ英国の投資市場は景気動向へ反応するまでに時差があり、そしてロックダウン後における取引量の大幅な減少により価格変動に関するデータが得づらい状況にあります。それでは、この取引量の減少をどのように解釈すればよいのでしょうか?
取引量の持続的な低下は、頻繁に市場調整の先行指標となります。2017年第1四半期以降、12四半期以上に渡り我々は四半期に平均約150億ポンドの取引量で健全な投資を観測してきました。2020年第1四半期の取引量は120億ポンドで、第2四半期は70%減の40億ポンドが予測されており、世界金融危機(以下GFC)の影響を受けた2009年第3四半期の44億ポンドを下回ることとなるでしょう。
GFCでは6四半期連続で取引量の減少を続けましたが、今回はたったの5週間で同水準へ達しました。2009年の取引量は、3四半期連続で低迷していましたが、実質価値を見出し第4四半期に反発しました。これに基づくと、今年いっぱいの取引量は大幅な低水準が見込まれるでしょう。
取引量の低下については様々な解釈が可能です。一部の売主は現在の状況が経済力ではなく政府の政策によるものであり、経済活動が再開すれば中断されていた状況は部分的に回復し一定程度で推移すると考えています。他方では、新型コロナウイルスのワクチンが開発されるまでこの影響は残ると考える人もいます。我々はウィズコロナにおける働き方や生活を順応しなければならず、価格は下がることが予測されます。このシナリオを想定すると、買い手は賃料予測、テナントの信用リスク、借入可能額における前提想定を修正する必要があります。
それでは、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドがリアルタイムに実際の取引現場で把握している取引事例や投資家との意見交換からどのような洞察が得られているでしょうか?一つ言えることは、セクターや地域によって大きく異なる様相を呈しているということです。現在の環境下でも取引をいとわない洗練された国内外の投資家も多数いますが、それでも彼らの期待収益とリスク選考には大きな違いがあります。この需要の違いは、一部セクターが大幅反発する一方で他のセクターが長期の価格調整に入ることを意味しています。
過去の経験からセントラル・ロンドンは強健なマーケットであることが分かっています。物流の混乱により一部の取引は滞っているものの売買取引は継続しており、相対価値の魅力に気付いた外国人投資家から非常に強い関心が寄せられています。産業不動産及び物流施設を含む回復の早いセクターは、オンラインショッピングへの構造改革が加速し、倉庫やラストマイルロジスティクスにおける新たな需要を更に上昇させると投資家は考えています。オフィス需要は人との距離6フィートを要求された事による影響を受けやすく、また消費支出の影響を受けやすいビジネス(レジャー、パブ、クラブ、飲食店、小売り等)はソーシャルディスタンスによる必然的な行動変化への対応を学ばなければならないでしょう。これらリテールマーケットにおける取引は全面的に大きく減少しています。
今後投資家はテナントの賃料支払い能力を精査し、テナント企業のビジネスモデルをより深く理解する為、いまよりも一層詳細な調査を求めてくることが見込まれます。フィデューシャリー・デューティー(善管注意義務及び委託者の利益を優先する義務)を負う投資委員会のメンバーは、市場の価格調整がより明確になるまで取引には消極的になる可能性があります。とはいえ、ディストレスアセットの売却が始まる可能性は高いでしょう。
新型コロナウイルスとそれに伴う行動の変化は取引量へ大幅な減少をもたらし、特定のセクターに大きな影響を与える一方、その他のセクターへの影響は無風又は好影響さえ与えるように、アシメトリーな結果をもたらすことが予測されます。そのような中で多くの投資家は「ベストな相対価値をいかに見つけだすのか?」に最大の関心を寄せています。