この記事は不動産ファンドレビュー551号(2020年12月15日発行)内のGlobal Reportに掲載されたものです。
新型コロナウイルス感染拡大によって甚大な経済的被害を受ける小売業界。そこで本稿では、アジアにおける路面店市場の状況を俯瞰する。
最も大きな経済的打撃を受けた国の一つである香港。2019年の下半期にはすでに社会不安や地政学的な不確実性、そしてそれに伴う中国本土からの観光客の減少が小売業に打撃を与えていた。2020年初旬にCOVID-19の流行以来数ヶ月の間、ソーシャルディスタンスと国境閉鎖によって、高級品、化粧品、ファストファッション、F&Bなど、中国本土の観光に大きく依存している全カテゴリーで大きな打撃を受けた。この社会不安とパンデミックのダブルパンチの影響を最も受けたのが、香港の最高級ショッピング地区であり、伝統的に観光客で賑わってきた銅鑼湾(コーズウェイベイ)だ。過去一年間で賃料が46.3%下落し、893香港ドル(月・psf)となった。他地区における賃料の下落幅がここ数ヶ月で緩やかになったこともあり、尖沙咀(チムサーチョイ)が、9月時点で964香港ドルと初めて銅鑼湾の賃料を上回った。
香港の不動産オーナーの中には、大幅に割引された賃料が物件の資産評価に影響を与えるため、新規の長期賃貸契約を急ぐよりも、店舗の空室状態を維持することを選択する者も出ている。このギャップを埋めるために、一時的にはポップアップストアの成長も見込まれている。今後12ヶ月間の小売業の見通しは非常に厳しいが、香港が観光業に大きく依存していることを考えると、長期的な市場の軌道は、中国本土との国境の再開放に左右されている。
一方の中国本土では、旅行者がもともと海外で消費をしていた高級品等が国内にシフトするなど消費の加熱も見られている。特に上海の商業施設市場の需要は徐々に回復しており、国内外の小売業者が一等地の店舗を求めて積極的に出店しており、そのため、多くのショッピングセンターの不動産オーナーは募集賃料を堅持しているという状況だ。
感染拡大防止に大きな成功を収めている台湾であるが、国際的なヒトの流れが制限され、路面店市場が無傷で過ごせているわけではない。南京中山では賃料水準が安定しているものの、台北駅エリアでは下落。西門と忠孝の賃料も下落圧力を受けている。小売拠点の中では、西門が観光客の減少によりコロナウイルスの流行の影響を最も受けた。中孝市では、不動産オーナーによる大型店舗スペースの分割や一時的な賃料減額などにより、前年の高かった空室率から徐々に回復、賃料の下落は緩やかになっている。ウイルス発生を受け、世界各国からの旅行者の買い物が大幅に減少したことから、土産物店や免税店が最も苦戦している。西門市の土産品店や化粧品店は、国内でのショッピングが旅行者不在の影響を食い止めるのに役立つことを期待して、地元のファッションブランドやF&Bの店舗に取って代わられた。免税店オペレーターは、国内買い物客をターゲットとしてポップアップ店開設の動きを見せている。
ヨーロッパや北米など他地域の小売業者にとって、アジア市場はいくつかの市場で回復が観測されていることから、希望の光となっている。ワクチンの普及とともに、この光が世界各国にひろがっていくだろう。