経済環境
世界経済は、米欧の高金利・高インフレと中国の景気減速の下で地政学的リスクも高まり、2023年末から2024年前半にかけ停滞感が強まる見通し。日本でも訪日需要の回復等により2023年はGDPの年率成長率2%前後(コンセンサス予想、以下同)が見込まれるが、海外経済の減速や半導体市場の低迷継続が下押し要因となり2024年は1%前後の減速に転じる見通し。一方、東京都の雇用環境は改善が継続。2019年第2四半期から2023年第2四半期にかけて全国の就業者数は28万人の微増だったのに対し、東京都は同27万人の増加。2023年4月から6月平均の産業別雇用者数(原数値)をみると、コロナ前の2019年の同期間平均から卸売業、小売業は12.3万人減少、情報通信業は同23.1万人の増加となった。
需給
2023年第3四半期末、都心5区グレードAオフィスの空室率は前年同期比0.7pp上昇し5.1%、募集面積率は前年同期比横ばいの7.1%となった。虎ノ門・神谷町及び三田・田町エリアの1年以内に竣工した物件が空室を残して竣工を迎え、空室率に反映されたことが要因である。当該エリアを除いたエリア全体の空室率は3.4%、前年同期比1.1pp低下に転じている。
新規竣工物件をみると、柔軟な賃貸条件を設定し、満室稼動での竣工を目指す貸主がいる一方、賃貸条件を下げずに時間をかけてテナント誘致活動を行う貸主もおり、竣工1年以内ビル(貸室面積約16万坪)の内定率は63.1%に留まる。今後1年以内に竣工を予定するビルの貸室面積は、過去10年平均の8割程(約10万坪)であるが、内定率は未だ43.5%。移転を急がないテナントが、2025年に予定されている過去10年平均の2倍を上回る大量供給などを見越し、移転取引を先送りにしていることには留意しておきたい。
今後これらの物件の貸室面積に相当する二次空室が発生する懸念があるが、携帯電話データ等を基に試算すると、都心5区オフィスエリアにおける出社率は2019年の7割程度で、第1四半期以降安定しており、新築や築浅物件に対する問い合わせも足元では増加傾向。現時点では総体的な需要は安定して推移しており、二次空室の消化状況には注視が必要だが、大幅な空室率上昇は見込みづらい。
賃料
2023年第3四半期の都心5区グレードAオフィス全体の平均想定成約賃料は前年同期比0.7%減少の34,335円と、緩やかに下落。募集賃料の下落幅(同マイナス0.9%)もほぼ同等となっており、ピークである2021年同四半期の年平均増減率(想定成約賃料-4.7%、募集賃料-4.0%)と比較すると、賃料下落のペースは明らかに減速している。今後は断続的な新規供給に伴う二次空室の増加から、市場平均賃料に下方圧力が見込まれる。しかし、1990年以来のインフレや都心部を中心に賃料水準の高い新築物件が供給されること等を鑑みて、市場平均賃料としてはおおむね横ばいが見込まれる。一方、グレードBでは賃料の調整により稼働率を維持した物件が多く見られた。次ページ右端の物件毎の2019年末以降の賃料及び空室面積変化をプロットしたグラフをみると、想定成約賃料はグレードAで約9%、グレードBで約20%下落したが、空室面積の変化率は0%近辺にとどめた物件が大半を占める。
東京都のテレワーク実施率調査によると、実施率は2021年8月の65.0%から45.2%に減少しており、従業員100人以下の企業においては同期間で59.0%から39.5%、従業員300人以上の企業においても84.6%から61.3%、実施企業における週3日以上の実施率は同期間で51.6%から44.4%に減少している。各社企業は出社率を高める取り組みをしており、その一環として、移転先を好立地、ハイ・グレードなオフィスにして従業員満足度を高め、同時に人材採用における優位性も高めている。中小企業等によるオフィス拡張や、大企業の集約移転・縮小移転等、いずれの事例でも移転先は立地及びビルグレードを改善している事例が多く確認されていれる。