経済環境
2023年は外需やサービス需要の回復が物価高等に相殺され、実質 GDPは暦年換算で 1.6%程度と緩やかな成長。 2024年には内外リバウンド需要の一巡や海外経済減速等により、1.0%程度まで減速が予想されている。円安による業績改善が続いてきた企業業績はやや減速。2023年 7~9月期の経常利益は前年度比 -5%、製造業に限ると -10%となった。一方、東京都の雇用環境はさらなる改善が継続。 2019年第 3四半期から 2023年第 3四半期にかけての失業率は 0.4ppと微増。しかし、若年者の自発的離職者増加の影響は労働参加率の上昇により相殺され、東京都の就業者数は 8.4百万人に増加。伸び率も、全国の就業者数は年平均 0.1%の微増に対し、東京都は同 1.0%の増加。 2023年 7月から 9月平均の産業別雇用者数(原数値)をみると、コロナ前の 2019年の同期間平均から卸売業、小売業は年平均 1.2%減少、情報通信業は同 2.9%の増加となった。
需給
2023年第 4四半期末、都心 5区グレード Aオフィスの年間ネットアブソープションは 142千坪と対前年比 50.9%増加。しかし、同空室率は前年同期比1.5pp上昇し 4.9%、募集面積率は前年同期比 0.5pp上昇の 6.8%となった。虎ノ門・神谷町及び三田・田町エリアの 1年以内に竣工したビルで空室を残して竣工を迎えたことが主因である。晴海・勝どきエリアでは、晴海トリトンスクエアのように大規模改装に伴い潜在需要を喚起した事例もあるが、エリア内空室率は前年同期比 13.2ppから 25.1%へほぼ倍増。当該エリアを除いた都心 5区グレード Aオフィスの空室率は 2.4%、前年同期比 0.8pp低下と総じて安定的に推移している。新規竣工物件では、竣工 1年以内ビル(貸室総面積約 19万坪)の内定率は 70.5%。今後 1年以内に竣工を予定するビルの貸室総面積は、過去 10年平均の 6割程(約 7万坪)にとどまる。柔軟な賃貸条件を設定し満室稼動での竣工を目指す貸主がいる一方、 2025年からの過去 10年平均の 2倍を上回る大量供給を見越し、様子見をしているテナントもやや増加傾向。
2016年以降の都心 5区のオフィス・ワーカー数の伸びは都心5区の事務所延床面積の伸びを上回って推移しており 、オフィス・ワーカー一人当たりの事務所面積が同 2016年対比で既に約 18%縮小した。一方、都内オフィス・ワーカー数は、 2025年までに年率約 1.6%の増加が予想 5されており、館内増床や拡張移転等により需要が底堅く推移する蓋然性が高い。産業別の就業者増加率をみると、ネットワーク効果が大きく、東京への一極集中が進む情報通信産業の従業者の伸びが 2019年から 2025年にかけ年平均 4.5%増加と突出している。テナント移転理由を総括すると、「立地の良いビルに移りたい」、「設備グレードの高いビルに移りたい」等のグレード・アップや拡張移転のニーズが増加傾向。コロナ禍で賃貸面積を削減したものの、在宅勤務の縮小に伴いオフィス内の執務スペースが不足し、館内増床、館内テナント専用ラウンジスペースやサービス・オフィスを活用するテナントも増加傾向にある。新たなオフィスの使い方に沿った様々な方面からの需要の回復を鑑みても、総じて供給要因が抑制された 2024年内の需給バランスはややタイトに推移する見通し。
賃料
2023年第 4四半期の都心 5区グレード Aオフィス全体の平均想定成約賃料は前年同期比 0.1%低下の 34,532円と 、 募集賃料の下落幅 同マイナス 0.8% より小幅となっている 。 実際の取引においても募集賃料の水準から減額せずに成約している事例も散見され 、 賃料下落ペースには底打ちの兆しがみられる 。
前述の通り需給バランスは安定して推移する一方、 賃料の下方圧力としては 、2025年以降の新規供給増加とそれに伴う二次空室の増加、及び建築費高騰に伴う内装工事費上昇が挙げられる 。 建築費に関しては、一般財団法人建設物価調査会によると 2023年 12月時点の東京都における事務所 鉄骨造 の工事原価は 2015年から 27.4%上昇 。 前テナントの既存の内装を居抜きで引き継ぐケースや、現貸主の所有 ・ 賃貸借物件に移転することで原状回復工事義務免除等により 、移転に伴うテナントの工事費用負担を緩和し、成約賃料を募集賃料に近い水準に維持する事例もみられる。賃料下落ペースの底打ち感やインフレも踏まえ、今後の名目賃料はほぼ横ばいで推移すると予測される 。