経済:
勤労世帯の実収入をみると、高まるインフレを背景に前年比1.5%減と目減りする中、コアCPIは引き続き上振れ傾向にある。 12月の生鮮食品を除く全国のコアCPIは前年比4.0%増と1981年12月来の記録を41年ぶりに更新。そして、燃料価格に対する政府支援や統計上の見直しなど構造的要因を除いた実勢のコアCPIは 同4.6%増と上振れし、12月の消費者態度指数もマイナス幅を拡大した。小売業・飲食業の販売価格DIをみると2008 年の資源高時の水準を上回っており、2023年半ばまでは仕入価格上昇を反映した連鎖的な値上げが広範囲に広がっていく可能性が高い。このうような環境下、生活必需品価格は高騰し、個人消費回復の大きな阻害要因となっている。しかし、2023年内に見込まれている資源価格低下、金融政策転換に伴う円高などには若干の物価抑制効果は認められており、2024年末までにはインフレも徐々に沈静化していくことが見こまれている(次ページ右上グラフ参照)。また、個人消費の本格的回復が見込みがたい環境でも、高所得者を中心とした家計貯蓄率は高止まりしており(次ページ右中グラフ参照)、依然として好調な高級品消費は底支えされていくと予測している。
3年ぶりに行動制限のない年末年始を迎えた2022年第4四半期の小売販売高は消費税増税の影響を除いた2018年を若干下回るレベルまで回復する見通し。うち、全国百貨店売上(既存店)の3か月移動平均値は前年比6.2%増。年央の同22%増からは大幅減速しているものの、インバウンド需要の再開や気温低下から衣料品の販売が好調であった。経済産業省の発表する販売額指数(2015年=100)をみると、年間百貨店売上は2019年の92.9に近いペースまで月間売上高は回復しつつおり、ほぼコロナ前の状況に戻ったと考えてよいだろう。地域別にみると、外出が抑制されてきた都心への人流復帰から中規模都市の売上に若干落ち込みが見られた。一方、11月の全国ドラッグストア(同7.9%増)、全国コンビニエンス・ストア(同7.9%増)などの最寄り品の消費傾向は数量ベースでは概ね変わらず。耐久財消費などは買い控えの傾向が示されている。
一方、新規開発案件のアナウンスをみると、中長期的なエリア再開発が加速している。これまで銀座は地権者の関係調整が難しく、耐震機能に劣る縦長のペンシルビルが多いとされてきた。しかし、ヒューリックは、銀座で保有する37棟のうち、2029年までに少なくとも14棟を建て替える方針を明らかにした。2023年以降に順次完成し、総工費は約3千億円を超える見通し。そして、東急・ヒューリックが主導する渋谷駅東口宮益坂再開発事業(延床面積:200.080平米)は、2028年まで段階的に竣工していく見通し。大阪では、ヒューリック、竹中工務店、JR 西日本に仏LVMH社 が参画したうえで、心斎橋プラザビルが建て替え予定(延床面積:46,241平米) 。エリア内一等地の再開発が進展していく中、アクセスに見劣りするセカンダリー物件などにおいては、相応の二次空室の発生を見込んでいくべきであろう。
移転動向:
堅調な高級品消費を背景としたハイ・ブランドの出店需要は継続。第4四半期の動きをみると、前四半期対比では目立った賃料変動は観測されなかったが、銀座、表参道、心斎橋などではテナント需要が強含みで推移。期中の出退店の動きを総括すると、再開発の機運が高まる銀座に高級家具ブランドのHerman Miller が出店。 国内再上陸となるアパレルブランドのAmerican Eagle は、渋谷へ出店。人流が回復する新宿・池袋・地方都市では、中価格帯のマス・ブランド出店が相日本再進出で次いだ。ほか、ブランド品の代替需要、生活防衛や環境保護の意識の高まりなどを反映して、時計やブランド品のリセール業者の出店も目立った。
全体を俯瞰すると、欧米の景気後退から国内消費も抑制される懸念が強まる中、立地条件に劣るセカンダリーエリアにおいては、賃料水準が折り合わず空室が長期化する物件は依然として多い。しかし、エリア内一等地を追求する上位テナントの入れ替えが継続する銀座、表参道、心斎橋においてはプライム賃料の緩やかな上昇を弊社では予想している。
売買動向:
金利上昇、資本コストの上昇を背景に市場全体の取引高は減少傾向。 2022年第4四半期までの年間商業施設売買取引高は前年比16 %減の約5620億円。会社単位の売買を除けば、平均取引規模も減少傾向。商業施設のタイプ別にみると、築古の都心型商業施設において収益力低下を懸念した売却需要が増加傾向にある。投資家の属性としては、引き続き海外投資家の売り需要が強く、安定したインカムを追求する国内REITが買い支える構図が続いている。主な期中取引としては、クラウドファンディングなどの不動産小口化商品をを組成するFPGが米Heitmanの保有するハイマンテン渋谷ビルを含む商業施設3物件を計400億円で取得した。FPG は不動産ファンド事業の拡大が続いており、2022年9月末時点での国内不動産累積販売額は1000億円を超過している。ほか、米Grosvenor の保有する銀座の商業ビル二棟が高級不動産に特化した鹿島の子会社であるイートンリアルエステートに計190億円で売却された。