―APREA Webinar「Capital Market Outlook」―
APREA は昨年11 月22 日より5日間にわたりアジアパシフィックの不動産に関するWebinarを開催した。リートやPFI、プロップテックなど多岐にわたるテーマで座談会や講演が行われた。今回は、26 日に行われた基調講演「Capital Market Outlook」の概要を掲載する。
最も早く回復した中国と目立つ韓国へのグローバル資金流入
まず各国の2021 年第3四半期のGDP を確認しよう。コロナ前の状況(2019 年第4四半期)に戻っているのは、中国、香港、韓国、ニュージーランド、シンガポールで、戻っていないのは、インドネシア、インド、日本、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン。特にフィリピンは厳しい状況にある。中国の商業不動産投資市場は2020 年1年間で、特にティア1の都市で回復が見られた。韓国は2020 年第2四半期以降、グローバルな資金が流入したため、アジアパシフィックで最も活発な動きが見られる市場の一つとなっている。ニュージーランドとシンガポールは、コロナパンデミックのコントロールに成功したことで、経済成長が続いている。特にシンガポールはワクチン接種率が高いため国交再開による恩恵を受けている。
オーストラリアは2021 年第1四半期にはパンデミック前のGDP に戻ったが、第二波の影響でロックダウンを実施したことにより第3四半期には悪化してしまった。だが、オーストラリアの商業不動産投資市場は特に海外投資家からの強い需要があることなどから、第4四半期には再び回復すると見込まれている。インドもコロナの影響を最も強く受けた国の一つだが、経済は回復傾向にあり、2021 年第4四半期にはコロナ前の状況に戻るであろう。マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンはいまだに感染拡大の状況にある。興味深いのは、オーストラリア、インドネシア、インド、ベトナムが2020 年末には一度GDP がコロナ禍前まで回復していたのに、2021 年第2~第3四半期にコロナ第二波によって再び悪化した点である。ただ、ベトナム以外の国々は第4四半期に再びコロナ前のレベルまで回復するだろう。最も早く回復(2020 年第2四半期)した中国と2023 年第1四半期まで回復が見込まれないフィリピンではほぼ2年間の開きがある。
2022 年はインドの成長が突出
2022 年のGDP 成長率予測は、インドが9%超と突出しており、引き続きグローバル投資を惹きつけるであろう。2021 年には約8%というアジアパシフィックで最も高い成長を見せた中国だが2022 年は4%程度が見込まれており、このレベルの成長がしばらく続くと予測されている。アジアパシフィックで最も成熟した経済を持つ国の一つであるオーストラリアは今年と来年は4%程度が見込まれるが、同様な成熟経済国であるシンガポール、台湾、韓国、日本、香港の成長スピードは遅めである。ここで大切なのは、アジアパシフィックのGDPがこの20 年で急成長した点にある。2020 年には北米とヨーロッパそれぞれのGDP とほぼ互角まで拡大、2050 年には全世界のGDP の約50%を占めるであろうと予測されており、それゆえ、グローバルな資金はアジアパシフィックでの投資機会を虎視眈々と狙っている。
アジアパシフィックの取引額を見ると、中国、韓国、オーストラリア、香港、シンガポールは2021 年の取引額が2020 年を上回ると予測されており、このエリアにおける取引総額は2020年を上回る1800 億ドル程度になろう。また、2022 年も引き続き強い投資意欲に支えられ、1800 億ドルを上回る可能性が高い。2020 年第1~3四半期と2021 年第1~3四半期の各国の取引額を比較すると、中国が最も多く300 億ドル超、前期比約15%増。2番目は韓国で、コロナ禍でも投資活動がストップしなかったため前期比54%増、250 億ドルを上回っている。3番目の日本は海外投資の減少が影響し前期比16%減少、取引額は韓国を下回ったものの、J-REIT 市場は住宅市場に対する投資家の積極的な姿勢が変わらないため引き続き活況を呈している。
オーストラリアはCBD のオフィスタワーなど高額な取引が行われたことに加え、他のアジアパシフィックの経済成熟国と比べて長期リースのリターンが高いことと透明性の高さから投資市場は活発で前期比104%となっている。
目立つ中国へのクロスボーダー投資
最大の出資国はシンガポールと香港で、両地域ともオーストラリアと中国への投資が目立っている。シンガポールの中国への投資は堅調なまま推移するであろう。2021 年は、大手保険会社やテック企業をはじめとする中国の地場資本が国内市場を支配している状況にある。アジアパシフィック以外ではカナダがその二国への投資に積極的である。カナダは2020 年以降アジアパシフィックへのアロケーションを増やし、とりわけ中国やインドといった成長市場への投資が目立っている。過去2年間はオフィスとリテールが最大の投資セクターであったが、物流と住宅への投資も増加している。いずれの資金も積極的にオーストラリアに向かっており、オーストラリア市場は今年のキーとなる投資先である。
アジアパシフィック上位50 社のファンドマネージャーにおける最大の資金源は香港で30%を占めている(2位ニューヨーク24%、3位シンガポール16%)。最大の投資先は中国で43%、主要セクターは物流施設、オフィス、データセンターとなっている。データセンターが挙げられているのは、工業用地取得の能力があり、物流施設の運営経験を持つ投資家たちがデータセンターの取得競争に参入しているためである。2021 年前半はコア投資が2020 年と比べて極端に減少した。これは単にコア投資の機会がなかったことによるが、比較してコアプラスは大幅に増え、コアとコアプラスが全体の60%以上を占めている。2022 年は主なCBD のオフィスビル価格はあまり変わらないままであろう。主にオフィス分野にコア投資を行う投資家の多くは質とESG の観点から投資姿勢の再確認が必要となるであろう。また、サプライチェーンの多様化によって地域をまたいだ投資機会が増えそうだ。
ホテルについては、香港やシンガポールでコロナ後にリバウンドが発生するため投資機会がありそうだ。香港ではホテルから住宅やオフィスビルへのコンバージョン例が多数見られている。
(APREA 主催「Asia Pacific Real Assets Leaders' Congress」より抜粋・収録)
出典:不動産経済 Focus & Research No.1357