- コロナ禍以降も、アジア太平洋地域のオフィス市場は引き続き堅調、ネット・アブソープションが連続してプラスとなった唯一の地域となった。
- 2022年の地域別投資額は、2019年のピーク時と同程度の約1,800億米ドル(約20.4兆円)と予想。
グローバル不動産総合サービス会社のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(グローバル本社:米国イリノイ州シカゴ、日本本社:千代田区永田町、C&W)は、「Catch '22 - Asia Pacific Commercial Real Estate Outlook 202(アジア太平洋 不動産市場の見通し)」 レポートを発行しました。当社予測では、アジア太平洋地域外での経済成長が正常化していく一方、アジア太平洋地域は2022年内には景気回復、地域内の実質GDP成長率も年率4.5%程度に達することが予想され、下半期には米州地域に代わり地域別の実質経済成長率では、トップになるとしています。
レポート執筆者であるドミニク・ブラウン博士(C&W アジア太平洋地域 ヘッド・オブ・インサイト&アナリシス)は、「国別の予測では、インドの2022年の実質GDP成長率は年率9%を超え、地域の成長を牽引。シンガポール、日本、韓国などの先進国では、輸出の回復に支えられ、過去平均以上の経済成長を予測しています。また、豪州では、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州で都市封鎖が長期化しましたが、年内にも経済成長は回復。中国では、2021年の力強い景気回復を受けて、経済成長率は正常化していくでしょう」と述べています。
他方、香港特別行政区、インドネシア、フィリピンでは、国内消費の回復が見込まれるとはいえ、国境閉鎖に伴うマイナスの影響が上回っています。こうした国々での実質GDP成長率は、コロナ禍前の5年間平均成長率に近い値にとどまっており、今後国際貿易が再開されたとしても、その後の景気回復を牽引する需要にも不確実性が残ります。アジアの残りの国々では経済成長が鈍化するでしょう。ベトナム、マレーシアはインバウンド観光客の不足により深刻な影響を受けており、タイでは感染拡大の抑制に苦戦しています。
[画像] 図1:国(特別行政区)別、実質GDP成長率(2022年予測、過去5年平均との比較
出典Moody's、Cushman & Wakefield
アジア太平洋地域全体で失業率は依然として高いものの、概ねコロナ禍におけるピーク値を大幅に下回り、過去5年平均値対比でも低位にとどまるでしょう。しかし、産業別に回復速度が異なる「K字型」の景気回復では、専門サービス、IT、金融、製造業での産業では失業率は抑制されていますが、小売、観光、接客サービス型の産業では雇用に対するダメージが顕著になっています。さらに、サービス型の労働力を海外からの移民に依存しているシンガポールやオーストラリアなどの国々では、国境間移動が回復するまで、労働力不足のままとなります。
必要とされるビジネススキルと求職者との間のミスマッチは増加しており、人材獲得競争も激化しています。 マイクロソフト社調査 によると、世界の労働者の41%が今後1年以内に転職を検討しており、いわゆる「Great Resignation (退職・離職が大幅に増加する時代)」の到来が懸念されています。このような現象は、米国に始まり豪州なども同様の傾向が見られるようになってきました。オフィス・テナントにおいても、テクノロジーや不動産への戦略的投資を怠らないだけでなく、最も身近な社内の人材の確保と社外の人材獲得の重要性が増していることに留意すべきでしょう。
オフィス市場の見通し:コロナ後のアジア太平洋地域の回復力に期待
当社分析に基づけば、アジア太平洋地域のオフィス市場は、コロナ禍以降、プラスのネット・アブソープションを維持した唯一の地域となりました。
空室率の上昇は、概ね需要を上回る供給のタイミングによるものであったため、限定的であり、賃料下降圧力も僅かなものとなりました。2021年はデルタ株の感染拡大に伴い、多くの地域で都市封鎖の影響が顕著であったとはいえ、中国本土の一級都市における需要が記録的に増加しました。このため、2021年の地域内オフィス床需要も堅調で、年間総計で5.1百万平米(55百万平方フィート)、2020年の水準を約77%上回る水準に達する見通しです。
今後のオフィス床需要はさらに増加していき、2022年には6.7百万平米(72百万平方フィート)、2023年にはコロナ前の水準、約83万平方メートルに回復すると予測しています。リモート・ワーク体制は幅広く受け入れられていますが、そもそもアジア・太平洋地域においては、幅広い働き方を望む従業員の比率が米国や欧州に比べて低いため、床需要への影響も比較的小さいと予想されます。将来的には、持続的な雇用増と段階的なオフィス空間への回帰が、在宅勤務などによる需要減を相殺していくでしょう。アジア太平洋地域の空室率を見通すと、2023年内に18%までの上昇を予測しますが、2023年までの空室増加の過半はインド市場のみに大きく影響されたものです。今後2年間に限れば、概ねの国々で新規供給が抑制される時期に入っていくという点についても留意すべきでしょう。
オフィス需要も、2022年以降はほとんどの市場で回復基調へ向かうことが予想されています。供給も比較的少ないことから、賃料は2021年後半から2022年前半に底打ちと予想され、これは年初想定されていた時期よりも約12ヶ月早いタイミングに相当します。都市別では、シンガポール、ソウル、ベンガルールなどの賃料上昇率が高くなっていくでしょう。
投資の見通し:2022年も過去最高額を達成する見遠し
コロナ禍の影響を受けないわけではありませんが、不動産投資市場は迅速に回復しています。年内の調達金利は小幅に上昇しましたが、2022年以降も、総じて超低金利環境が継続される見通しであり、インフレ・ヘッジとしての不動産投資の位置づけ、記録的な投資待機資金量の増加、大手投資家による集中的な投資案件増加などのトレンドは維持されていくでしょう。2022年の年間投資額は、2019年の記録的な水準に匹敵する約1,800億米ドル(約20.4兆円)になると当社では予測します。
投資市場は引き続き活発であると予想されますが、産業用資産への注目度が高まっていることから、平均的なディール・サイズが縮小する可能性があり、取引量の増加が、取引総額の増加には直結しない可能性が高まっていることには留意が必要です。ただし、仮に質の高い資産や大型ポートフォリオが市場で売却される機会が生じてくれば、取引総額は当社予想を超える可能性もあります。
[画像] 図2:アジア太平洋地域の投資額予測(開発用地を除く)単位: 10億米ドル
出典Real Capital Analytics, Cushman & Wakefield
また、利回り追求やボラティリティ軽減を求める投資家の間では、日本以外での集合住宅、データセンター、ライフサイエンスなどの研究開発施設などの新たなアセットクラスが人気を集めはじめています。こうしたオルタナティブ資産では、高い成長率が見込まれ、投資の分散効果も優れていますが、市場規模もまだまだ限定的であり、情報開示も限られているため、効率的に資本を投下する機会も限られていることには留意が必要です。
熊谷真理(C&W リサーチ&コンサルティング日本責任者)は次のように述べています。「歴史的に平均居住面積が小さく、対面ビジネスを重視する日本を含めたアジアの商慣習なども鑑みれば、在宅勤務に伴うオフィス市場への影響が総じて限定的であったことは想定範囲内であった。産業別に最適な在宅勤務の在り方は異なる。なかでも、企業側の判断に慎重な傾向がみられた日本では、空室率の上昇や賃料の下落も限定的であった。不動産投資市場においては、膨張する投資待機資金の対比で、投資対象資産が不足している構図は変わらない。賃料が若干弱含みしても、調達環境に顕著な影響は見込まれず、当面は強気の投資環境が継続していくことが見込まれる。」