レポート
アジア太平洋 オフィスアウトルック 2024
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの2024年アジア太平洋オフィス・アウトルックでは、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの各都市の需給、空室率、賃料データを予測しています。
地域概要
主要なメッセージ:
- インフレ率は概ね改善したものの、域内の多くの市場で目標インフレ率を上回っている。
- アジア太平洋地域の経済成長は鈍化するものの、2024年にはプラス圏(実質年平均成長率3.5%~4.0%)を維持し、2025年には再び加速すると予想される。
- 経済見通しの悪化にもかかわらず、地域のオフィス需要は2024年にはパンデミック前の水準に達すると予測されるが、過去平均を上回る新規供給が空室率を押し上げるだろう1.
- 賃料の伸びは、2024年は横ばいで推移し、2025年から徐々に加速すると予測される。
- 品質への追求が続いていることを考慮すると、より新しく高品質の建物がアウトパフォームする可能性が高い。
不安定な経済情勢を背景に、アジア太平洋地域のオフィス市場は堅調に推移し、成長を続けている。2023年1-9月期には、アジア太平洋地域の上位25都市で約5,000万平方フィート(msf)のグレードAオフィスが床需要が吸収され、最終四半期にはさらに1,200万平方フィート(msf)の需要が見込まれている。2023年の年間オフィス需要は6,200万平方フィートと予測され、昨年の5,500万平方フィートから11%の改善となる。
2023年の新規供給は109msfとなり、需要を上回り、空室率は2022年の16.1%から17.6%に上昇する。その後、賃料の伸びは鈍化し、加重平均ベースで約0.5%のマイナスとなりそうだ。
見通しは引き続き改善傾向にある。需要は2024年に83msf、2025年には87msfに増加すると予測されており、これはパンデミック前の実績に匹敵する。しかし、新規供給の波も押し寄せており、今後2年間で約235msfの竣工が予想され、空室率にさらなる上昇圧力がかかる。このため、2024年の賃料は地域加重平均レベルで横ばいとなり、2025年から徐々に加速するとみられる。従って、テナントにとっては、短期的にはチャンスが続くこととなる。2.
経済的背景
世界的に不透明感が漂う一方で、慎重ながらも楽観的な見方もある。
ほとんどの経済圏でインフレ率は高止まりしているものの、2022年後半のピーク水準に比べればかなり低下している。この低下の背景には、燃料・エネルギーコストの低下やインデックス算出時のベース効果など、いくつかの要因がある。しかし、食品を含む他のカテゴリーのインフレはまだ持続しているため、多くの中央銀行の目標インフレ率を上回った水準にとどまっている。また、多くの国が大幅な自国通貨安に見舞われ、輸入コストが押し上げられている。課題は残るものの、中央銀行は総じて利上げサイクルに転じつつある。利下げ時期に関する予測は依然議論の的となっているが、コンセンサス予想では、2024年半ば以降になるだろうとされている。
図1:特定市場のCPI変化率(前年比)
† ニュージーランド=2023年9月 * オーストラリア=月次推定値
出所 出所:ムーディーズ・アナリティクス
雇用動向は、この急激な金利上昇サイクルにもかかわらず驚くほど回復力を維持してきた。地域内主要14ヵ国のうち11ヵ国もが、2023年末の失業率はパンデミック前の5年平均を下回ると予想されている。残りの3カ国(タイ、インドネシア、中国本土)の失業率は、最大でも5年平均を26ベーシスポイント程度上回るに過ぎない。2023年にはアジア太平洋地域で1,100万人近い雇用が創出され、うち370万人がオフィス・ワーカーと推定される。2024年の雇用創出予測は800万人で、うち210万人がオフィス・ワーカーとなる見通し。
アジア太平洋地域の経済成長率は、2023年の4.5%予想に対し、2024年は3.5%~4.0%と予想される。鈍化したとはいえ、この成長見通しは他地域よりも依然として強い。北米と欧州は、2023年には当初予想よりも回復力を示したが、2024年はより厳しいものになりそうである: ユーロ圏の成長率は1.0%、北米は1.3%と予想される。
アジア太平洋地域内の成長軌道は、先進国と新興国の間で異なっている。ベトナム、フィリピン、インド、マレーシアが成長のけん引役として予想される。インドは、インフラ整備、旺盛な国内消費、外国投資に支えられ、2023年には世界経済をけん引する役割となるだろう。フィリピンも旺盛な国内消費と政府支出の恩恵を受けている。実際、東南アジアの大部分は力強い経済成長期を迎えており、その一因は、製造業の拠点設立需要の高まりと付随した海外直接投資の増加である。アジア太平洋地域の観光業は、パンデミック以前の水準を約25%下回る水準にとどまってきたが、特にタイでは、今後の成長をさらに下支えしていく可能性がある。
地域内の先進国経済の見通しは、より複雑である。シンガポールは、貿易、特に電子部品需要が回復に向かうにつれて、2023年のかじ取りが難しい局面から立ち直ると予想される。中国の先行きはやや不透明だ。外需に対する依存、内需がまだ軟調であること、不動産市場が弱含みであることは、すべて市場において喫緊の問題である。リスク緩和要因のひとつは、引き続き当局の金融緩和姿勢が見込まれていることだ。
オーストラリアと日本は概ね地域内平均と同様の水準で推移していくだろう。オーストラリアでは、住宅ローンの変動金利型が多く採用されているため、高い金利費用負担が国内消費を抑制しており、中央銀行が利下げサイクルに踏み切るまでは、大した成長は期待できない。2023年にイールドカーブ・コントロールがある程度緩和された日本では、2024年後半に短期マイナス金利の解除が市場では予想されている。今後はインフレ率を上回る賃金の伸びを確保できていくかどうかが、引き続き重要課題となる。
図2:2023年と2024年の特定市場の実質GDP成長率(年平均
Source: Moody’s Analytics
オフィスの展望
地域全体では、平均を上回る新規供給の時期が2025年まで続いた後、供給が抑制されていくと予想される。コロナ渦の影響で遅れてきた建設が続々と市場に供給されているためである。例えば、インドの都市を合計すると、2023~2025年に予想される新規供給のほぼ半分、168msfも占める。
当然のことながら、2023-27年の予測期間全体で供給が目立つのは、地域内でも最大規模を有するオフィス市場となる。例えば、ハイデラバード、ベンガルール、上海、深圳では、2027年までに55msf以上の供給が見込まれており、これは既存ストックの32%から66%に相当する大量供給となる。
対照的に、ブリスベン、ジャカルタ、ソウル、シンガポールでは供給が比較的限られている。こうした都市では、2027年までに予測される供給合計は既存ストックの10%未満にとどまっている。供給の波を見ると、ブリスベンでは、新規供給が見込まれない年が数年あるのに対し、他の都市では「少しずつ、そして頻繁に」という供給アプローチが顕著である。
図3:2023~27年の新規供給量*(msf)と2023年の既存ストックに占める割合
出所: Cushman & Wakefield
需要の観点から見ると、インドの上位8都市は、過去18ヵ月間、オフィスのネットアブソープションで地域をリードしてきた。予測期間中も、引き続き地域内トップとなる年間平均約40msf(地域全体の約52%に相当)のネットアブソープションが見込まれている。
中国本土の一級都市も回復が続くと予想される。これら4都市(北京、上海、広州、深圳)のオフィス需要は、2023年末には2022年比20%改善の13msf強となり、その後2024年には18msf近くまで加速し、予測期間の残りは年間20msf前後で推移すると予想される。
東南アジアのいくつかの市場でも、需要の大幅な増加が見込まれている。クアラルンプールとマニラは国内経済成長が拡大しており、増加のペースが際立っている。
その他の地域では、東京が2021~22年の比較的低調な時期から脱却しつつあり、2024年の需要は5.3msfと、コロナ渦後の数年だけみれば高い水準のネットアブソープションが見込まれている。しかし、供給に主導された需要であることは変わらず、テナントがより質の高いビルや好立地に移転する潜在需要を後押しする格好となっている。
図4:地域別Aグレードオフィスの年間ネットアブソープション(msf)と空室率*。
* 中国本土=北京、広州、上海、深圳 インド=アーメダバード、ベンガルール、チェンナイ、デリーNCR、ハイデラバード、コルカタ、ムンバイ、プネ その他のAPAC=バンコク、ブリスベン、ハノイ、ホーチミンシティ、香港、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、メルボルン、ソウル、シンガポール、シドニー、東京。
出所: Cushman & Wakefield
地域全体で依然として重要な共通する問題である。最近の分析では、テナントの意思決定において「ビルの立地と品質」がますます強調されている。持続可能性や環境認証といった要素はますます重要になってきているが、アジア太平洋地域全体をみれば品質認証の比率は比較的低いレベルにとどまっている。したがって、需要はさらに二極化、あるいは三極化し、好立地のクラス最高のビルや、用途転換の可能性のあるビルが需要を牽引することになるだろう。
オフィス需要の見通しは明るいものの、新規供給が需要を上回るため、空室率は2024年も上昇を続けると予想される。2027年の空室率は2023年を上回ると予測される市場が約半数を占めるものの、最も顕著な上昇は一部の市場に集中している。広州の空室率は2023年に14%から20%へと約600bps上昇し、2027年には30%近くまで上昇すると予測される。深圳でも同様の状況が見られ、空室率は2023年の27%から2027年には35%近くまで上昇する。こうした空室率上昇の幅は最高水準であるが、ハイデラバード、クアラルンプール、バンコクなどの市場の空室率も2027年までに25%を超えると予測されている。これは主に大量供給によるもので、こうした都市すべてでオフィス需要が堅調に推移すると予想されることの裏返しでもある。ここでもまた、テナント需要を正しく理解した上で適正にオフィス物件を配置することが空室率の高い市場においても重要であることが浮き彫りになっている。
シンガポールとソウルは、需給が最も逼迫した市場であり続ける可能性が高く、空室率はともに5%を下回らないだろう。東京やマニラも、予測期間中(2027年)に空室率が7%を超えることはないだろう。オーストラリアでは、空室率は10%前後で安定的に推移すると予想されるが、ブリスベンとシドニーでは供給が抑制されていくため予測期間の終わりに向けて空室率がさらに低下する可能性が高い。
図5:ネットアブソープション(msf)と空室率2023~27年
出所: Cushman & Wakefield
こうした要因を総合すると、当面の間、貸料の上昇圧力は比較的小さいと思われる。しかし、一概には言えず、細かく見ていけば、ほとんどすべての市場において、ビルの品質を軸とする需要の二極化が生じている。
都市別に見ると、最近のパフォーマンスは様々である。2023年の地域全体の賃貸料上昇を牽引したのは、ブリスベンを筆頭とするオーストラリア市場である。シドニー、メルボルンとともに2027年まで最も力強い賃料の伸びを示し、年平均約4%から7%の伸びが予測されている。ジャカルタの同時期の賃貸料増加予測も同様だが、これは2025年からの力強い成長が前提となっており、目先の成長鈍化を相殺するためには、この成長が実現する必要がある。シンガポールでは、旺盛な需要、限られた供給、すでに逼迫している空室を背景に、2025年以降、年率約4%の安定した成長が予測されている。
他の地域では、賃貸料の伸びはより緩やかである。中国本土のティア1市場では、当面は軟調な状況が続く。東京の賃料は2027年まで横ばいで推移し、賃料が大幅に下振れするリスクは小さいと予想している。
図6:市場別賃料見通し、2024年(前年比)および2023~27年(年率)
出所: Moody’s Analytics
2024年オフィス一覧
1 これらの地域平均を下回ると、4つの指標すべてにおいて、各地域の市場動向は大きく異なる。入居者、投資家ともに、来年以降の戦略を立てる際には、各地域の市況を精査することをお勧めする。
2 リース期限切れの見直し: https://cushwake.cld.bz/reworking-lease-expiries
3 https://www.cushmanwakefield.com/en/insights/apac-strength-through-diversification
4 https://www.cushmanwakefield.com/en/australia/insights/reworking-the-office
5https://www.cushmanwakefield.com/en/australia/insights/rethinking-the-office-sector
関連インサイト
MarketBeat • Workplace
2023年第4四半期は名目賃料は底打ちとなり、空室率は供給に連動してゆるやかな上昇となりました。
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