進む空港民営化
地方空港の経営状況は決して明るいものではないですが、空港民営化により空港の経営力向上、透明性のある空港使用料の設定、LCCの参入促進、空港インフラの強化、訪日外国人の玄関口増加等が期待されています。
2016年4月に関西国際空港及び伊丹空港が民営化され、その後仙台、高松、神戸、下地島、静岡、南紀白浜、福岡と空港民営化が進みました。2020年1月に北海道7空港、同年4月に熊本空港が民間経営へ移行されました。また広島空港は2021年7月の移管を予定しています。
民営化の先駆けとなった関西国際空港及び伊丹空港では民営化後旅客数が増加し、2019年度は2015年度(民営化前)との比較で順に19.6%増(+471万人)、7.8%増(+114万人)となりました。発着回数においては、関西国際空港が同16.0%増(+2.7万回)、伊丹空港が同0.3%減(▲3千回)と2空港合計では増加しています。運営する関西エアポートは関西国際空港における国際線のターミナル拡張や新規就航等により国際線を強化し、国内線のみが運行する伊丹空港ではターミナルのリノベーションを実施する等、神戸空港を含む各3空港の役割を明確化しプラス成長を遂げてきました。
民営化が進む地方空港ですが、今年に入りコロナウイルスの影響を受け状況は一変しました。2021年7月に民営化を予定する広島空港の入札では、三菱地所を中核とする陣営と三井不動産を中核とする陣営が名乗りを上げていましたが、コロナ禍で投資回収が厳しいと判断した三菱地所陣営は撤退を表明し、現在優先交渉権者は事実上三井不動産を筆頭とするMTHSコンソーシアム(他、住友商事、東急、東急建設、東急コミュニティ、九州電力、中国電力、マツダ、広島マツダ、広島ガス、広島銀行、ひろぎんキャピタルパートナーズ、広島電鉄、エネルギアコミュニケーションズ、福山通運)に決定しています。三菱地所は高山空港、下地島空港、静岡空港、北海道7空港の民営化に参画しており、三井不動産は熊本空港、北海道7空港の民営化に参画しています。空港利用者や便数の大幅な減少により短中期の計画は見直しが迫られますが、コロナ終息後の反動を見据え民営化は粛々と進められています。
北海道7空港の可能性
北海道は地方空港を含む7つの空港を一括で民営化する事により、北海道全体での活性化を目指しています。単体での空港民営化は空港間競争により、経営悪化を招く可能性がある為複数の空港を一括民営化する事でリスク分散が期待できます。また北海道知事はこの民営化に伴い道内13空港全てを連携させ「大北海道空港」構想を推進する方針も示しました。
7空港の17年度の経常収支は、新千歳9,029百万、稚内▲724百万、釧路▲795百万、函館▲775百万、女満別▲825百万円、市が運営する帯広、旭川は16年度で同▲389百万円、▲356百万円と、新千歳以外の6空港は赤字体質が定着しています。国管理空港では羽田に次ぐ収益力を持つ新千歳を柱とし、6空港の黒字化を目指します。
北海道空港を筆頭とする計17社が参画する北海道エアポートグループは、最低投資額2,920億円を提示し優先交渉権を獲得しました。国との契約では7空港のうち1つでも運営を停止した場合は契約解除を可能とし、期間は原則30年、災害等による影響が出た場合は最大で5年の延長が認められています。また30年間の投資総額は約4,300億円を見込み、その70%弱を収益性の高い新千歳空港に回し、残りの投資額と新千歳からの利益を他6空港へ投資する事により北海道全体としてのパイ拡大を目指すとしています。7空港は30年間で旅客数1,738万人増、国際線60路線増、国内線22路線増を目標とする他、空港の移動手段においてMaaS導入も視野に入れています。
しかし北海道7空港は民営化直後よりコロナによる逆風を受け、経営計画の軌道修正を迫られています。民営化期間は延長の検討に入り、現時点で運営期間中の投資総額については変更しないものの、2020年から5年間で計画していた投資額1001億円は縮小が見込まれ、新たな投資計画は2021年1月を予定しています。計画を長期化する事でこの難局を超え、「大北海道空港」構想の実現を果たしていく構えでしょう。
